かしす☆おれんじ☆

 同期が1人、今日で退職した。2人で送別会のようなことをした。俺とそいつは同期ではあるが、そいつが退職することに、何の感傷も無かった。それなのに俺から居酒屋へ誘ったのは、ただ、時には1人で飲むのに飽きて、誰かと飲むのも悪くないと思っただけだ。

 

 会社の近くの、チキンカツが美味いことで有名な店へ流れ込んだ。それからなんだか良く分からない話をしながら、ビールと焼酎のグラスを重ね続けた。

 

 仕事を辞めて何をするのかと聞けば、海外へ行くのだという。羨ましい限りだ。そのまま現地で人生の伴侶でも見つけてくると良い。そう言ったところ、「面倒だから伴侶なんていらないね」という。

 なんとなくその辺は、俺と同じ考え方らしい。なぜだか腹が立ったので、勝手にカシスオレンジを頼んでやった。女の子らしいカクテルでも飲んで、周りから注目を浴びるが良い。

 

 2人で焼酎のボトルを1本空けて、会計を済ませた。財布を出そうとするのを制して、俺が支払った。餞別代わり。

 

 並んで駅までの道を歩く。すれ違ったサラリーマンの何人かが、振り返ってこちらを見た。人目を引くのは俺ではない。――そうではなく。

 見た目はアイドル並みの、今夜限りで日本を発つ彼女。

 

 明日の朝の飛行機でアメリカへ行くそうだ。またいつか、今夜のように飲める日が来るだろうか。