もしも子供ができたなら

 朝から喫茶店でトーストとゆで卵とコーヒーをたいらげて、ジムへ行った。今日は肩のトレーニング。インクラインサイドレイズ、インクラインリアレイズ、インクラインフロントレイズをきめて、それから50分ランニングをした。それが終わると家路について、シャワーを浴びた。

 

 今日やることはすべて終わった。俺の休日のタスクはこれだけだ。つまり朝9時のこの時点で、今日の残りはすべて暇ということだ。しかし禁酒してからというもの、暇を持て余している俺は、こうした時間の過ごし方に慣れている。

 

 おもむろに、バッグに財布だけを入れて駅へ。

 東京行きの電車に乗り込むと同時に、「雀魂」を立ち上げて東風戦を始めた。この一局が終わった時点で電車を降りるのだ。もちろん麻雀の進み方は局によって全く異なる。5分ほどで終わることもあれば、長引いて20分以上かかることも珍しくない。だからどこで下車することになるかは分からない。偶然や流れに任せた、ぶらり途中下車。今日5分で思いついたにしては悪くない大人の休日倶楽部だった。

 

 降りたのは吉祥寺だった。ちなみに東風戦は俺のトップで終了。勝利の風とともに、井の頭公園へ降り立つ。人が多い。5分で嫌になる。ジブリ森美術館まで歩こうと思っていたのだが、とてもそんな気になれなかった。公園入口の有名な焼き鳥屋から、角を曲がった。途端に人通りが途絶える。人混みから一本通りを入れば、閑散とした住宅街が続いていた。マスクを外して、悠然と住宅街を歩く。

 

 20分ほど歩いた。途中で楳図かずおの家を見つけた。赤と白の縞模様。バルコニーあたりには彼の漫画のキャラがポーズを取っている。「悪趣味な家で景観を損なう」として周辺住民が訴訟を起こしていたことを思い出す。けれどそれから10年ほど経って空き家になった今、その建物は景観に溶け込んでいるように見えた。時の流れは物事を落ち着かせる。

 

 それからまた30分ほど歩いて、西荻窪駅との間あたりで学校の前を通りがかった。中を見てみると、校舎にはラテン語で何やら書いてある。意味は分からないが、とにかくお洒落だ。土曜日なのに部活の練習をしている。中高一貫の女子校らしい。建物もシックで、楳図ハウスを彷彿とさせる落ち着き具合だった。少し調べてみると、偏差値も相当高いらしい。俺が入ろうとしても、入り口の守衛室で連れ出されるだろう。何しろ女子校だ。それもまた響きが素晴らしい。いつか俺に娘ができたらこの学校に通わせようと決めた。いつかそんな日が来るのだろうか。時の流れは物事を落ち着かせる。俺はこの女子校に落ち着きたい。

 

 不審者に間違われる前に駅へ向かった。そして自宅へ帰り、昼寝をして、再びジムへ行ってサウナに入ってきた。毎週と同じルーチンだ。時々俺は、これが何度目の土曜日か分からなくなることがある。禁酒を始めてから一か月が経った。だから4回目だ。たぶん。