午前5時、国立駅から上りの中央線に乗った。目的地はなかった。

 阿佐ヶ谷で電車を降りた。ホームから改札へ下り、数秒迷って南口へ。

 

 一度も降りたことのない駅だ。朝焼けを待つ街並みにはカラスが混じっている。目的地はなかった。高円寺の方向へ向かう。

 

 阿佐ヶ谷は、煙草の香りがどこからか漂う街。辺りを見回しても、煙草を吸っている人はいない。けれどどこかから、どうしても漂ってくる。

 しばらく歩いて、アーケードへ足を踏み入れた。

 ゴミが散乱している、幅が7メートルほどのアーケード街。看板には「嘔吐禁止」の文字。24時間営業の安居酒屋からは串揚げの臭いが鼻を突いた。どこかで鳴く、陰鬱な鳩の呻き声が午前6時のアーケード街下に響き渡っている。

 

 何を求めてここへ来たのだろう、と思う。

 求めているのはもっと、清くて、たぶん正しいもの。それらのひとつとして、ここにはなかった。

 

 東京へ上るのはやめて、下りの電車に乗って、俺の住む町へ戻った。

 最寄り駅で降りて、喫茶店へ。トーストとゆで卵、それにコーヒーを平らげて、ジムへ行った。

 よく「出会いが欲しければジムへ行け」という。

 日曜日の午前8時のジム。俺はそういうものを求めていった。しかしそこで出会ったのは、呻き声だか喘ぎ声だか判別のつかない気合いを入れながら大腿四頭筋を鍛えているオッサンだけだった。負けじと、こちらも色っぽい気合いを入れながら大胸筋を追い込む。オッサンも、俺の気合いに刺激されながら「ンアァッ!」と妖艶な声を出し始めた。生産性のない争いが、桜の綺麗な日曜日に繰り広げられていた。

 

 この桜も今週一杯で散るそうだ。平成最後の桜、と誰かが言っていた。