うぇいっ!?

 夜を待った。

 午後5時半。近くの蕎麦屋へ。タコの唐揚げと秋刀魚の塩焼きをつまみながら、生ビールと焼酎を呷る。この店の蕎麦は中々美味いけれど、時間がかかるのが欠点だ。時計を見て、あまり時間がなかったので、蕎麦は頼まずに店を出た。

 

 紺色に染まり始めた東の空。西の空は、まだ紅の彩りが残っている。まだ夜までには少し時間があるようだ。そのまま、近くのバーへ流れ込む。

 

 季節の果物を使ったフレッシュ・フルーツカクテルに心を惹かれる。カウンターの中のバーテンダーにそう声をかける。と、返ってきたのは、

「どの果物にしますか?」

 という問い掛け。何があるのか、と目で問う。

「いまですと、スイカ……は終わっちゃったか、あとは梨とか葡萄ですね」

 なんてこった。すっかり季節は秋じゃないか。いつしか過ぎてしまった夏への哀切と驚きは心の奥底に押し隠しながら、

「葡萄でお願いします」

 と冷静に告げる。心の動揺は表には中々出てこない年頃になった。魂にも脂肪がつくものだ。と、続いて問われる。

「ベースのお酒は何にしますか?」

「うぇいっ!?」

 変な声が出てしまった。果物も酒も客が決めるとは思っていなかった。ここで俺が「じゃあ芋焼酎で」とか言ったらどうするのだ。芋と葡萄。無駄に季節だけは合っている。

 

 結局ジンで作ってもらった、いささか甘すぎるカクテルを飲みながら時間を潰した。この後は少し用事があった。知人の舞台を見に行くことになっていた。――どうせそこでもウイスキーでも飲むのだ。そう言い訳をして、もう一杯。次はモヒートを頼んだ。ミントの青い香りが炭酸とともに弾ける、夏のためのカクテル。このカクテルの季節ももう終わりだ。季節は確実に移りゆく。夏から秋へ。窓の外では、夜がその色を濃くしはじめていた。