えい、ちくしょう

 夜が来る。俺はいつもの夜をそうやって迎えるように、酒を飲む。夜というのは酒を飲まずには過ごせないものだと思う。

 

 高校生の頃、夜にはコーヒーを飲んでいた。それはブラックコーヒーで、だから当時の俺は疑うことなく中二病真っ盛りだったわけだ。えい、ちくしょう。(この、「えい、ちくしょう」というのは、「カラマーゾフの兄弟」の中でよく出てきた感嘆詞だ。どこかしこで使われていたので、きっとここで使っても、間違いではないだろう)

 

 そうやって慣れないコーヒーを飲みながら、だんだんと酒を覚えていった。ビールから焼酎へ、やがてウイスキーへ至る。

 王道というべきか、悪道というべきか、それは分からない。しかしとにかく、そうしてコーヒーとウイスキーとは交わりはじめ、いつしかコーヒーには角瓶だのバランタインだの、そういうウイスキーが節操なく混ざるようになっていた。

 

 そして高校も終わる頃には、その飲み物はコーヒーと呼ばれるべきか、ウイスキーと呼ばれるべきか、分からない代物になっていた。その飲み物を「ろくでもない」、と形容するのは正しい。そしてそれを飲む俺もまたしかり、というわけだ。えい、ちくしょう。(こうした感嘆詞の使い方は、カラマーゾフの中ではよく使われていた。彼らは酒で失敗すると、「えい、ちくしょう」と言って終わらせるのだ。実に潔い)

 

 俺はこんなろくでもない文章を書きながら、手元のバカラ・グラスにサントリースペシャル・リザーブを注ぐ。たけのこの里をかじりながら、グラスを傾ける。そうしているうちに、澄んだ東の空には下弦の月が昇る。やがて俺は眠りに落ち、月は空高く輝く。そのまま月が空に留まり続けると良い。いつまでも眠りを貪り、起きては月下にウイスキーを傾ける。そんな、空想。

 

 明日には東の空に太陽が昇る。そうしてまた明日も、一日はきっと始まるのだ。えい、ちくしょう。